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大槽内ステロイド注入療法
について
Drug-induced Convulsive Therapy
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西日本ペインクリニック 原野 清
はじめに
ペインクリニックではいろいろな難治性慢性疼痛に苦しんでおられる患者さんの除痛治療に多く携わります。
しかも他の診療施設から紹介されてペインクリニックを受診される患者さんであれば、発症より長期間経過した症例が多く、その間種々の治療がなされているため発症当初の疼痛が相当ゆがめられた形となっています。
最近このような症例に対して重症うつ病に適応されている電気痙攣療法(Electroconvulsive Therapy; ECT)による除痛効果についての有効例、無効例の報告がいくつか報告されています1-4)。
私は1986年よりコハク酸メチルプレドニゾロンを大槽内(小脳延髄槽内)へ注入することにより痙攣を誘発し、視床痛に代表される中枢性疼痛やその他の難治性疼痛症例の治療を行いほぼ満足すべき除痛効果を得ていますので紹介いたします。
注意:
- ステロイドのくも膜下腔への注入は適応外使用です。
- この治療により、一時的に健忘症状が副作用として生じます。健忘は数日中に回復します。
治療方法
この治療法について、十分に説明をお受けになり、納得して同意された患者さんに対して
次のようにして治療を行います。
術前検査
一般的な手術に必要な基本スクリーニング検査の他に、必要に応じてCT、MRIなどの画像検査を行います。
循環器系、神経系の診察を行います。
これまで痛みに対して、抗けいれん薬を服用していた患者さんは、医師の指示に従って一週間程度、その服用を中止してください。
高血圧の患者さんは、医師の指示により、降圧薬を服用するなど血圧のコントロールが必要です。
治療
治療は手術室で行います。
手術室では、この図のように少し頭を下げた体位で治療を行います。
首の後ろから神経ブロック用の針を刺して、コハク酸メチルプレドニゾロンという
薬を注入します。
まず、針を刺す部位に局所麻酔を行います(下図左)。続いてブロック針を正しい位置に
刺し入れます。針が正しく大槽内(小脳延髄槽内)に達すると、下図中央のように脳脊髄液が逆流してきます。
薬剤の注入は、下図右のように、注入→引き戻し→注入を数回繰り返す「バーボテージ」と呼ばれる手法で行います。
これで治療は終わりです。
治療後は直ちにICUで半日〜1日の集中観察を行います。
観察のために脳波、心電図、パルスオキシメータ、血圧計を装着します。
ICUでの集中観察期間中に、20〜30分間隔で、1〜2分継続するけいれんが起こり、2〜3時間繰り返します。
ただし、その間は全身麻酔で患者さんは眠っておられ、筋肉の収縮を抑さえる筋弛緩薬という薬を投与していますので、外見上はけいれんが起こっていることはわかりません。図のように、脳波でけいれんが起こっていることをモニターしています。
痙攣発作中には、脈が速くなったり、血圧が上昇したり、動脈血液中の酸素飽和度が低下したりしますが、降圧薬を使用したり、酸素を投与して適切に対応します。
効果判定
1週間後に効果判定を行います。
効果判定の結果、著効、有効と認められれば、退院できます。
無効の場合は、患者さん、ご家族の皆さんなどと相談し、ご希望に応じ、再度治療スケジュールを調整いたします。
再治療には1週間以上の間隔をおきます。
治療成績
1986年から1999年5月までに行った、74症例/107回(男性 40例/62回、
女性 34例/45回)、年齢 21〜79(55.9±13.5)歳
に対する治療成績は以下の通りでした。
| 疾 患 | 回数/例数 | 著効 | 有効 | 無効 |
| 中枢性疼痛(%) | 61/43 | 35(57.4) | 22(36.1) | 4(6.6) |
| 難治性慢性疼痛(%) | 46/31 | 17(37.0) | 12(26.0) | 17(37.0) |
合併症
今までに経験した合併症は治療開始初期に痙攣時の高血圧(230mmHg)によると思われる軽度のクモ膜下出血、一過性の40℃に及ぶ高熱症と前歯の義歯脱落をそれぞれ一例ずつ経験しました。
クモ膜下出血症例は、顕著な除痛効果とともに後遺症もなく経過観察のみで治癒しました。現在は、全身麻酔下に筋弛緩薬を使用して行うSilent-DICTに変更したので、今後は起こり得ない。
高熱症は気管内挿管を行い、体表クーリングのみで解熱を得ることができた。
いずれも、筋弛緩薬を用いない初期の方法による合併症です。
参考文献
- King JH, Nuss S: Reflex sympathetic dystrophy treated by electroconvulsive therapy: intractable pain, depression, and bilateral electrode ECT. Pain 55(3):3933-3936, 1993.
- Bloomstein JR, Rummans TA, Maruta T, et al: The use of electroconvulsive therapy in pain patients. Psychosomatics 37(4):374-379, 1996.
- 土井永史、米良仁志:中枢性疼痛に対する電気痙攣療法 ペインクリニック、19:845-853,1998.
- McCance S, Hawton K, Brighouse D, et al: Does electroconvulsive therapy (ECT) have any role in the management of intractable thalamic pain? Pain 68(1): 129-131, 1996.
- Moricca G: Chemical hypophysectomy for cancer pain. Adv. Neurol. 4: 707-714, 1974.
- 原野 清:視床痛に対する下垂体ジブカインブロック 第20回日本ペインクリニック学会(1986年)抄録集 p70.
- Harano K et al: Treatment of thalamic pain with methylprednisolone sodium succinate by intracisternal administration, 8th World Congress of Pain (1996) proceedings.
- 原野 清:難治性疼痛に対する大槽内メチルプレドニゾロン注入法、パネルディスカッション「難治性疼痛への挑戦」, 日本ペインクリニック学会誌 5:285, 1998.
- 原野 清:難治性慢性疼痛に対する大槽内メチルプレドニゾロン注入法、日本医学会総会(1999年)抄録集 p312.
- 原野 清:難治性慢性疼痛に対するdrug induced convulsive therapy、J. Anesthesia, 13:186, 1999.
- Nelson DA: Dangers from methylpredonisolone acetate therapy by intraspinal injection. Arch Neurol. 45:804-806, 1988.
- Sonia E D, Fine E J: Disappearance of thalamic pain after parietal subcortical stroke, Arch. Neurol 44:285-288, 1999.
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